2013年にオックスフォード大学の論文が発表され、今後10〜20年のうちにコンピューターに取って代わられる確率を 702 の職種で試算した結果、高い確率となった職種が発表されました。そのリストの中に「電話オペレータ」も入っていて、私も大変驚いたのを今でも覚えています。あれから5年が経ちました。電話オペレータの募集は減るどころか、今も多くの企業から求められ、ほとんどのコールセンターの最大の課題として「人手不足」が挙げられます。
少なくとも日本においてはこれからも募集が多い職業であり続けるのではないか、と思います。電話オペレータの仕事は残念ながら人気のある仕事とは言い難いですが、引き続き「需要のある仕事」だと言えるのではないでしょうか。手厚いカスタマーサービスが必要なのは主にシニア層です。日本の人口構成から考えても、団塊ジュニア世代(40代後半)がシニア層になる頃までは、電話というチャネルがなくなることはないでしょう。また同時に若者の電話離れを考えると顧客としての若者ではなく、電話オペレータ職への応募者としての若者も少ないことが考えられます。そのため「電話オペレータ」は今後も売り手市場が続くことが容易に想像できるのです。
しかしながら「仕事内容も今と同じか?」と問われれば、「変わっていく」と答えるでしょう。コールセンターが数多く誕生した1990〜2000年頃の電話オペレータと現在の電話オペレータ、そして今後の電話オペレータに求められるスキルは大きく異なるのです。黎明期の頃の電話オペレータは今から比較すると業務の難易度は高くありませんでした。短い初期研修かつ短時間のシフト勤務でも十分に業務につくことが可能でした。現在は対応する業務範囲がとても広く、かなりの業務知識がないと仕事は務まりません。とは言うものの人間の記憶できる量にも限界があります。それを助けてくれるのがAIです。つまり、AIの捉え方として、「AIは私たちの仕事を取り上げるもの」ではなく、むしろ「助けてくれるもの」と理解すべきだと思うのです。
これまで「電話オペレータの “需要” は団塊ジュニア世代がシニア層になるまでは続く。」そして「AIによって電話オペレータの仕事が “なくなる” のではなく、“助けてくれる” という捉え方」をお伝えしました。(そもそも多くの企業がAI導入の検討をしているのは、「深刻な人手不足を解消するため」でもある。)
但し注意すべき事はあります。電話オペレータの仕事はなくなりませんが、「内容(コールリーズン)や求められる品質」は AIによって大きく変わっていくと思う点です。恐らく簡単な問合せはだんだんと入電件数が少なくなっていき、今後は煩雑・難しい問合せが中心になっていくでしょう。具体的に言うと、一般的なコールセンターは「比較的簡単に答えられる問合せが多く、たまに難しい応対が入る。平均処理時間(AHT)は8〜10分程度」というイメージです。それが今後、「入電のほとんどが難しい対応が必要で平均処理時間(AHT)も15〜20分にのびる」ことになるかと思います。
これからの時代、電話というチャネルを選ぶお客さまには、それ相応の理由があります。「私だけの特別な事情を聞いて!(込み入った内容)」、「この怒りをどうしてくれるのか!(クレーム)」、「私はロイヤルカスタマーなのに!(特別対応)」、「簡単に分かりやすく説明して欲しい!(主にシニア層)」などの応対には、当然時間がかかるのです。そして、その場合の稼働を単純に計算すると、たとえ AIによって入電件数が半分になったとしても、平均処理時間(AHT)が2倍に伸びれば必要な電話オペレータ数は変わらないのです。と同時に別の見方をすれば、少し矛盾する言い方になりますが、もし質問者さまのセンターがボットなどで代替が効くような簡単な電話応対だけであれば(そのような事はないと思いますが)、近い将来電話オペレータの仕事が激減してしまう可能性も有り得ます。
これからの時代、好むと好まざるにかかわらずAI時代に突入するでしょう。AIは私たちに「ナレッジ(業務知識)」を助けてくれるので、私たちが求められるのはAIが苦手とする『フレキシブルな顧客応対力』です。これまでのように「お客さまの質問に迅速・正確・丁寧に答える」力ではなく、「お客さまの気持ちに応え、特別対応の権限を持って臨機応変に応対する」力が必要です。つまり、「電話オペレータ」という仕事が遠い将来たとえ少なくなったとしても、「顧客応対力」さえあれば就ける仕事がなくなる心配はないのです。
(掲載:CCAJ News Vol.267 / CCAJ News Vol.268)
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